あるところに子供がいました

あるところに子供が

あるところに、小さな子供がいました。
子供はいつも喜び一杯で遊び回っていました。
子供には不思議なところがありました。
鳥や獣と話すことができたり、子供が笑うと周囲の花が一斉に咲いたり、あるいは、村人が子供の近くにいると、病気が癒され元気を取り戻したりするのです。
なぜそのようなことが起こるのか、誰も知りませんでした。

ある日、子供の父親がたずねました。
「どうしてお前のそばにいると元気が出るのだろうね。」
子供はこたえました。
「いつもカミさまと一緒だからだよ。でも、お父さん、カミさまは一体だれなの。」

父親にはこたえられるべくもなく、村で一番の知恵者である村長さんのところに子供を連れていき、聞ききました。
「うちの子の言うカミさまというのは一体何なのでしょうか。」
村長さんはたいへん困りました。大抵のことはこたえられるのに、このことばかりについては何も知りませんでした。

そこで村長さんは子供を近隣で一番大きな神社の神主さんのところに連れて行きました。
「神主さん、この子の言うカミさまというのは誰なのでしょう。」
神主さんは、ほとんどの神様については知っていましたが、この「カミさま」については知りませんでした。
神主さんは正直者だったので、正直に「私には分かりません。が、ここの神社の神様に聞いてみましょう。きっとこたえてくれるでしょう。」

神主さんは神社の神様に尋ねてみました。
「神様、この子とともにいるカミさまとは何のことでしょうか。」
すると神様は、「う〜ん、私にも分かりかねぬ。わたし自ら大神様に尋ねてみよう」と。

神様が大神様に尋ねにいっている間、皆じっと待っていました。子供はそのうちにじっとしているのに飽きて遊び始めました。
少し経つと、神様が帰ってきて神主さんにこたえました。
「大神様に尋ねたところ、大神様にも分からないとおっしゃる。そして大大神様にも、そのまた大大大神様にも聞いても分からないという。今この間もたずね続けて、神々の中でも最も大いなる神に尋ねているところだ。少し待つがよい」と。

突然、気ままに遊んでいた子供が父親に向かって言いました。

「今ね、カミさまが聞いてきたんだよ。

『ワタシの下の神、またその下の神々たちが、ワタシとは一体何かと聞いてきたのだが。一体ワタシとは何かね。どうしてお前はワタシを生み出したのかね』

って。」

もう一度(ある在り方の物語)

PIG

ボクは、自分が生まれる前のことは全然覚えていなかった。
カミさまが教えてくれるまでは。

ボクが生まれたのは田舎の農家だった。6人兄弟だったので、生まれて数ヶ月で別の人のところに引き取られた。
引き取ってくれたオジチャンとオバチャンは、とても親切で、しっかりとボクを育ててくれた。
オバチャンはブラシをよくかけてくれた。最初は何されているかわからなかったんだけど、だんだん気持ちよくなってきて、ブラシを見ると眠たくなるようになってしまったくらい。
オジチャンは毎日体を洗ってくれた。ボクがきれい好きなことを知っていたのはオジチャンだけだったからね。
カミさま、あなたも知っていましたね。

時々、もうこれでもか、っていうくらいご飯を食べさせてもらった。まわりのみんなが過保護だって言うくらいにね。
オジチャンとオバチャンは、ボクがポッチャリしているのがいいって、いつもそう言っていたから、ボクはたくさん食べて寝て、時々走りまわって、それからまた食べて寝てってやっていたな。
二人が喜ぶ顔を見るのは、ボクの喜びでもあったな。
カミさま、あなたも喜んでたって言っていましたね。

オジチャンとオバチャンに引き取られて数年たったころ、ボクのうちに初めて見る人が来たんだ。オジチャンと話しているのを聞くと、引き取るとか引き取らないとか、いつ出るとか出ないとか、どうもボクの話をしているようだった。
その夜、オバチャンがボクの寝床に来て泣いていた。ボクは寝た振りをしていたけれど。オジチャンは、その日から無口になった。それまでたくさん話を聞かせてくれていたのに。
カミさまの話を聞いて、やっとその理由がわかったよ。

その日は突然やってきた。そろいの制服を着た三人の男の人が入ってきたんだ。ボクを車に乗せようとして、いやがったらボクの耳を引っ張って、お尻を押して。ボクは感情が麻痺しちゃったな。カミさまなんていない、って思ったよ。
カミさま、あなたも、「カミさまなんていないよ」って言っていましたね。

他の仲間と一緒に並んで、機械がある部屋で、意識がなくなったと思ったら、意識が体から離れてしまって、ボクはボクでなくなっちゃったな。
ボクの体は血を抜かれて、バラバラにされて、もとの形がなくなってしまった。
袋に入れられた体を見たときは、ボクは自分が生きていた意味なんてないって思ったんだ。
カミさまも、意味なんてないよって言っていましたね。

仕方ないから、ずっと自分の体の行方を追っていたけど、どこかのお店で、袋から出したボクの体を料理して、お皿にのせて出していたんだ。
そしたら、家族がそこにいてね、ボクのオジチャンとオバチャンに似た人たちだったかな。
その中の女の子がボクのことを食べながら言ったんだ、

「おいしいね、おいしいね」

って。

それを聞いたとき、ボクはパアッと広がったんだ、宇宙に溶け込んだみたいにね。
それで、一瞬にして思い出したんだ、自分が生まれる前のことも、生まれた理由も、すべての経験の理由も。

カミさまは、それはボクが「消化された」って言っていた。
違ったかな、「昇華」だったかな。
カミさまの言うことは難しいから、時々分からなくなっちゃう。

それでカミさまは「今回、この生き方を選んだね。すべて自分で選んでいたんだよ。どんな在り方でも選べるよ。次はどんな在り方を選ぶのか」って。

ボクは言ったんだ、

「カミさま、もう一度 豚がいい!」

 

その瞬間、ボクは光になった。

光