三十本の輻(や)が中央の轂(こしき)に集まっているが、
その轂の中の何もない穴があってこそ、車輪としての働きが生まれる。
泥土をこねて器をつくるが、
その器の中の空間があってこそ、器としての働きが生まれる。
壁に戸口や窓をくりぬいて部屋をつくっているが、
その壁に囲まれている空間があってこそ、部屋としての働きが生まれる。
沈黙という無があってこそ、音によって音楽が生まれる。
白紙という無があってこそ、色によって絵が生まれる。
よって、何かが有ることで利益がもたらされるのは、
その根底に何も無いことによるものなのだ。
実に、この有と無の相互の働きが世界をつくりあげている。
原文
「三十輻,共一轂,當其無,有車之用。埏埴以為器,當其無,有器之用。鑿戶牖以為室,當其無,有室之用。故有之以為利,無之以為用。」